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全力投球 ―武平半生記―(第三話)

 小酒井不木からの月給のお陰で生活も安定した岡戸武平、ちょうどその頃恋人のT子が療養所を退所させられる事になり、それを機に結婚します。仲田というところに一軒家を借り、使用済みコンドームを川に流して処分したり、隣家の年増の襲撃をかろうじて避けたりしながらも、平穏な日々を過ごしていました。が、そこに悲報が舞い込みます。

昭和四年四月一日の早朝である。門の格子戸を激しく叩く人がある。その音に眼覚めて夜着のまゝ門をあけると、小酒井先生の門下生(博士号を取るための若い開業医)が一人佇んでいた。私が格子戸のネジ錠に手をかけると、
「先生が今朝亡くなりました。すぐ来て下さい」
と顔面をぴりぴり痙攣させながら早口に云つて、
「私は他へ廻りますから、あなたはすぐ先生のお宅へ行って下さい」
と云うや否や馳け出すように仲田の停留所へ向った。私は家の中へ戻ると女房にその旨伝えて、通いなれた小酒井邸へ急いだ。

 ここからは急展開です。不木の死に顔を眺めてゆっくりと悲しみに浸る暇さえなく、岡戸は各新聞社への連絡、葬儀万端の手配を滞りなく済ませます。東京から葬儀に出席する為にやって来ていた森下雨村がその様子を見て、博文館への入社を勧めたのは、決して不木の死によって失業した岡戸に同情したというばかりではありません。

(第四話に続く)
(記 2003/12/19)

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