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井口唯志『白蛾』

平成15年6月27日発行 私家版 カバー 312ページ
 
『小酒井不木全集』に収められている書簡の中で、一番最後に不木が書いた手紙の宛名は井口唯志。手紙の内容から同業者と推測され、以前『名古屋新聞』を閲覧した時に「幻の十字架」という連載小説を発見した事もありますが、それ以上の事については詳細不明の人物でした。ところが先日講演会で蟹江町にお邪魔した際、その井口唯志のご遺族にお目にかかって詳しい経歴等をお教え頂いたという次第。井口さんは「井口唯志之碑」移設、単行本『白蛾』刊行といった活動をされています。
「白蛾」は現代小説で、いわゆる〈運命の女〉物。今井敦子という奔放な美人に翻弄される男達――という小説ですが、公金横領で逮捕、服毒自殺……とまあ男達がじゃんじゃん不幸に陥って行きます。敦子の方もしまいには裏切った男から結核菌の培養液を注射され、粟粒結核に罹って死んで行く、という壮絶な結末。割と楽しく読みました。

 井口唯志。本名、公。明治38年生まれ。大正初年頃教職に就く。その後大学に入学するが肺を病んで中退。大正15年、『名古屋新聞』に「幻の十字架」130回を連載。小酒井不木、小林橘川らの庇護の下、「討たれる人々」「聖剣十字架編奥平源八」「伊東お春」「悪魔の道」「白蛾」等の新聞連載小説がある。昭和7年12月31日、28歳で没。
(参考、「著者紹介」『白蛾』)

 没後、結核患者だったという事で、遺品の多くは遺族の手で焼かれてしまい残っていないのだとうかがいました。先日読んだ岡戸武平の「名古屋作家史」(『め 第5号』昭和32年9月8日発行)にも、井口唯志の名は出て来ますが評価についてはたった一言、「べつにこれというものも書けず胸の病いで死んだが、作家志望であつたことは確かだ。」とあるばかり。井口さんは知人の協力を得て叔父・井口唯志の残したかすかな痕跡を丹念に追跡し、ようやく新聞連載小説の存在にたどり着いたとの事。年譜を完成させるだけでも相当苦心されたものと推察されます。

 小酒井不木が世を去った3年後、やはり同じように結核を患った文学者がひっそりと世を去っていた、というお話。不木よりもずっと短命で、生前には全集どころか一冊の著書も出ていなかった「幻の」作家ですが、ご遺族の尽力で今もちゃんと「生きて」います。
(記 2004/4/1)

「井口唯志紹介」

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