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実録! 「疑問の黒枠」

 小酒井不木の長篇「疑問の黒枠」といえば、差出人不明の謎の死亡広告を利用して模擬葬式と還暦祝いを企図した村井喜七郎氏が、その席上で本当に死体となってしまった、という派手な幕開けが見所の一つである。この「模擬葬式」なる、小説ならではの大ケレンと思われた趣向を実際にやらかしたツワモノがいた! というお話。

 時は大正12年、「疑問の黒枠」発表より遡る事約4年。場所は四国――高知県。ここに佐野サヨ子刀自という、御歳71歳のお婆さんがいた。この方、歴代の高知県知事を友人とする土地の名物お婆さんだそうで、通称は「公園のお母」。この人が自分で自分の葬式を出した。知人の名士達が発起人を買って出て、仏式で葬儀を済ませたあと、会葬者約300名と一緒になって、白装束のまま楽隊を引き連れてパレードをした。そして続いて古稀の宴を盛大にやった、と記事には書いてあった。
 体裁こそ違え、まさに「疑問の黒枠」で村井氏がやろうとした事そのまんま。それどころか、村井氏は手品師を呼んできて屋内で派手にやろうとしていたが、サヨ子刀自の方が趣向のダイナミックさでは勝っているような気がする。

 ちなみに参照した記事は、中里武重「各地方名物男名物女:楽隊入りで「生きた人間」の葬式」(『現代』大正12年7月号)である。興味のある方は是非ご一読を。
(記 2002/2/6)

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