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トーク&ディスカッション「『新青年』の作家たち」 第1回 江戸川乱歩

10/3 於、ミステリー文学資料館

 ちょっと日が経ちすぎましたので、記憶が改変されて事実と違うようなことになっていたらご勘弁を。

 9回連続講座の記念すべき第1回のテーマはやはり当然というべきか「江戸川乱歩」、講師はこれまた当然というべき人選で中相作さん。奇しくも神奈川近代文学館の「大乱歩展」開幕初日と同日、小林信彦さんの記念講演と開催時間までかぶってしまったある意味悲劇的なイベントでしたが、ほぼ定員ぴったりの盛況ぶりでした。

 中さんの講演のタイトルは「涙香、『新青年』、乱歩」。そして、ご本人もおっしゃっていましたが、サブタイトルというか隠しテーマがあって、それは「江戸川乱歩最大のトリック」というもの。

 最初に江戸川乱歩が『新青年』に寄稿した小説、エッセイの数をまとめた一覧表が提示され、その傾向が分析されます。中さんが注意を向けたのは『新青年』デビュー~『新青年』離れ~という流れの後の、『新青年』終刊間際の時期になって乱歩が連載を始めた「探偵小説三十年」。後にこれは『宝石』へと連載の舞台を移し、最終的には『探偵小説四十年』という、作家個人の自分史としてだけでなく、日本探偵小説界の歴史を克明に書き記した貴重な資料として重宝されることになるのはご承知の通り。
 そして次に中さんによって提示された資料は光文社版の『江戸川乱歩全集』第28巻『探偵小説四十年(上)』に付された、新保博久さんによる「解題」。そこで触れられた「探偵小説三十年」草稿の内容について、中さんから指摘が。
「石磐に絵を描く二十にもならぬ若い小父さんはどこに消えたのか?」
 これは面白かった。というか、乱歩全集出た時に確かに新保さんの解題にも目を通しているはずなのに、何で疑問にも思わずスルーしてたかな。

 そこからの展開は改めて「名張人外境」で公開されるのでそちらをどうぞ。
 ともあれ、我々現代の読者が思い描く、「日本探偵小説の父・江戸川乱歩」というイメージを作り上げるのに作者本人の意思が働いた『探偵小説四十年』が大きく寄与していること、乱歩の探偵趣味の原点が「絵探し」だとすればその作風の意味が色々とよくわかってくること、などの指摘は忘れちゃいかんな、と思いました。

 その後の質問では『新青年』研究会の谷口基さんからも、「エドガー・アラン・ポー」をもじったペンネームを付けた時点で、それなりに「日本の」探偵小説の始祖たる自分、というセルフイメージを持っていたのでは、というような発言もありました。
 また『二銭銅貨』の内容についての質問も色々出てましたが、「南無阿弥陀仏」の暗号小説である「二銭銅貨」がデビュー作、というのは結局乱歩にとって、(それまで存在していなかった、といっても過言ではない)「日本の」探偵小説を自分が書いた、という自負につながる素晴らしい成果だったのでしょう。

 数年前から、ミステリ研究の中で『幻影城』が「カノン」と呼ばれ批判的な文脈で使われるのが流行ったり、作家の芦辺拓さんが「〈乱歩〉を生きた男──戦略的な、あまりに戦略的な」なんて挑発的なタイトルを使っていたりした記憶があるので、乱歩の文章ってのはそういう風に読者に受け止められる時代になったのだなあ、と思ったのは別に最近のことではないわけですが、年譜的な数字と現存する資料(しかも一見すると地味な内容)をさっと押さえ、すかさず江戸川乱歩の「トリック」を表に引っ張り出してしまう中さんの手法はスマートかつ説得力抜群で、さすがは江戸川乱歩リファレンスブック三部作の編者、と思わせるものでした。

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