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このアンソロジーがひどい

「小酒井不木著書目録(翻訳・アンソロジー他)」を久々に更新出来たのは嬉しいんですが、素直に喜べないこともありまして。

http://homepage1.nifty.com/mole-uni/list/booklist2.html#book2_20060530

『こんな幻の傑作が読みたかった! 恐怖ミステリー BEST15』
2006年5月30日第1版発行
編者 ほんの森
製作 有限会社 アートブック本の森
発行 株式会社 シーエイチシー
発売 株式会社 コアラブックス

 たまたまネットの古書目録で発見して、小酒井不木の「死体蝋燭」が収録されてたので購入したのだけれど、その他の収録作品の並びに妙な既視感がある。で、気がついた。これって、鮎川哲也編の『怪奇探偵小説集』第1巻じゃないか?
 鮎川哲也編『怪奇探偵小説集』全3巻、双葉社から新書版・文庫版が出て、最近では(といっても1998年)ハルキ文庫で復刊されている。この『怪奇探偵小説集』第1巻に収録されている18篇から、村山槐多「悪魔の舌」、江戸川乱歩「白昼夢」、松浦美寿一「B墓地事件」の3篇を除いて「BEST 15」にしてある。ベストなのに乱歩落とすとか、理由はさておきこの編者すげえ(笑)。
 それより驚くのは、鮎川哲也が収録作品それぞれに添えていたルーブリックを改変して収録していること。例えば城昌幸「怪奇製造人」に添えられたルーブリック。

城昌幸
 本名は稲並昌幸。明治三十七年六月十日、水谷準氏よりも三ヵ月おくれて東京神田の練塀町に生まれた。祖父さんが徳川の御家人であったというが、生まれた練塀小路というところもまた、歌舞伎で有名な河内山宗俊の住んだ町であった。探偵作家の松本泰氏が主宰する「探偵文芸」の大正十四年四月号に《秘密結社脱走人に絡まる話》を書いたのが第一作だから、その登場は非常に古く、長老的存在であった。昭和五十一年十一月死去。
鮎川哲也編『怪奇探偵小説集 1』(ハルキ文庫・1998年5月18日第1刷発行)

城昌幸
 本名は稲並昌幸。明治三十七年六月十日、東京神田の練塀町に生まれた。祖父さんが徳川の御家人であったというが、生まれた練塀小路というところもまた、歌舞伎で有名な河内山宗俊の住んだ町であった。
 氏は、城左門として知られる詩人でもあり、『若様侍捕物帖』の作家としても有名で、全体的に洒落れたセンスの作品が多い。
 探偵作家の松本泰氏が主宰する「探偵文芸」の大正十四年四月号に《秘密結社脱走人に絡まる話》を書いたのが第一作だから、その登場はとてもに古く、長老的存在だった。
(『恐怖ミステリー BEST15』)

 詩人「城左門」の活動や『若様侍』に触れてるし「洒落れたセンス」と独自に評価してるじゃないか、と思う無かれ。鮎川哲也のルーブリックには無いが、巻末の解説でちゃんと言及されているところ。

 城昌幸は、多くの読者にとっては先刻ご承知のことだと思うが、城左門の筆名で知られた詩人でもある。そして若き日のこの詩人は、一巻の詩集が刊行されたら死んでもいい、と思ったと言う。一方で氏は本編のような短くて洒落れたセンスに満ちた小説を、それこそ星くずのように沢山書きつづけた。
(「解説」鮎川哲也)

 編者が付け加えた情報は「『若様侍捕物帖』の作家としても有名で」のフレーズだけなのだ。まあ、何も無いよりマシだけどさ。

 奥付には「編者 ほんの森」とあるが「ほんの森=鮎川哲也」なわけもなく、まさに他人のふんどし。別の人がセレクトしたラインナップ勝手にいじったあげく、他人が書いたルーブリックまで無断使用のアンソロジーってすごい。編者の仕事って何だろう? 21世紀だよ、終戦直後の出版物の話じゃないんだよ。
 ちなみに「アートブック本の森」で検索するとタレント本、オカルト、サブカル、暴露本となかなか精力的な出版活動を展開しているところみたい。ここまで作り手に対して仁義を欠いた仕事をする出版社……。

この選集(アンソロジー)は、読みやすいように、当用漢字字体現代かなづかいに統一しました。御了解を得ておりません作家各位につきまして、ご本人あるいはご遺族、消息をご存知の方からのご連絡を頂ければ幸甚でございます。
アートブック本の森出版部

 巻末の断り書きも掲げりゃいいってもんじゃないし、中身が間違ってる気がするんだよ。現代仮名遣いとか言う前に、何か言っておくことあるでしょう。

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