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(翻刻)法律的に見た落語(六) / 浜尾四郎

 以前私は、詐欺の話の起源が何処にあるかといふ事を研究すべき必要を感じて、種々本(原文ママ)読で見た。私は文学者でないので、詳しい事は云へないが、西鶴あたりの話でも、どうも支那の話を取つたのが大分あるらしい。早桶屋などといふ話も、其の趣向は支那の話にもあるし、又西洋の探偵小説家の話にも非常に能く似たのがある。本家本元が何処であるか又偶然の一致であるか、その辺は能く分らないが、兎に角詐欺の方法としては巧妙なやり方だと云へやう。

 吉原で無銭遊興をした男が、附馬を引張廻して、おまけに飲み食ひの勘定まで立替をさせた揚句「あの早桶屋が乃公の小父さんの家だから、今こしらへて貰てやる、少し待てゐろ」と、早桶屋へ飛込んで大一番の早桶を誂へ、調子よく附馬をごまかして逃て終ふ。そこで牛太郎が待くたびれて早桶屋へ金を貰ひに行くと話がトンチンカンで、始めて(原文ママ)詐欺にかゝつた事が分るといふので、此のストリーは実際探偵小説的趣味がある。ある西洋の作家の書たもので精神病の医者の処に自分の友達を連て来て、彼奴に遇ふとダイヤモンドの事ばかり云ふからと云つて置て、そして宝石を盗むといふ話があるが、全く同一やり口のストリーである。
 「稲荷の車」といふ話は無賃乗車である。それから無銭飲食ではないが、金を胡魔化す話がある。遊び帰りの若い衆が、一杯ひつかけ乍ら、夜鷹蕎麦を食ふ「爺さん勘定払ふぜ、十六文だな、ソラ宜いか一文、二文」と目の子勘定をして、八ツまで数へると、上野東叡山の鐘がボーンと鳴る「爺さん今のは何時だね」「ヘイ九ツで」「アヽさうかい、ホラ十(、)(原文句読点無し)十一……」と数へて一文胡魔化す、その真似をした奴が、九、十と数へた時に、ボーンと来た「何時だね」「九ツです」「さうか、十、十一……」と一文是は損をしたといふ話だが、此の話は非常に面白い(。)(原文句読点無し)鐘の音を入れるなどは中々凝つてゐる。
 「狸の釜」などといふ話も詐欺になる(。)(原文句読点無し)「らくだ」は恐喝の話だから警察犯処罰令に触る。又「茗荷屋」といふ話は、宿屋の夫婦が、茗荷を食はせると物忘れをするといふので、客から預つた金を忘れさせやうと思つて、茗荷を食はせる。処が却つて宿賃を払ふのを忘れて行たといふ話だが、法律的にはどういふ事になるか却々難しい問題だと思ふ。
 女郎に振られたといふ話は中々沢山あるが、是が又問題で、抑も女郎なるものが、或る行為をすることを以て金を取つて上げるといふ事がどうかと思はれる。併し厳格に云へば、女郎の誠と卵の四角と云つても、ある意味に於る詐欺にはなるだらうと思はれるが、実際は余り法律問題にはならないやうだ。(つゞく)


初出:『落語研究 第卅六号』 昭和七年十月十日 落語研究会本部

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