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少年科学探偵

 本日は戦前に活躍した探偵小説作家、小酒井不木の124歳のお誕生日です。わー、ぱちぱち。
 そんなわけでさっそくですが、彼の業績の一端を紹介させてもらいましょう。昨年、9年ぶりに新刊が出たこともあって再評価の機運高まる、いや高まって欲しい「少年科学探偵」こと塚原俊夫君です。

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 真珠書房より刊行された「パール文庫」の1冊、『少年科学探偵』表紙より。左の白衣の少年が俊夫君で、右のチャラい感じのは助手の大野青年。戦前の小学生なのに髪染めてシャギーかよ。眉細いな。コイツ絶対カラコン入れてる。などという無粋なツッコミはおいておくとして、この表紙イラストは田城ひとみ(代々木アニメーション学院)という方の作品です。いいですね。中身は古めかしい探偵小説ですが、表紙はいわゆるライトノベルって感じにしてとっつきやすさを狙ってますね。

 そんな俊夫君のプロフィールを簡単にまとめてみました。

  • 現在、12歳。
  • 6歳の時、三角形の内角の和が二直角になることを自分で発見する。
  • 尋常小学校1年の時に詠んで絶賛された自作の俳句が「菜の花や 股のぞきする 土手の児等(こら)」。
  • 尋常小学校2年で中学卒業程度の知識を得る。
  • 尋常小学校を中退し、独学で動物学、鉱物学、植物学、物理学、化学、医学を修める。
  • 麹町三番町の自宅の隣が探偵事務所兼実験室。
  • 探偵助手は柔道三段の大野青年。
  • 趣味は魚釣り。
  • 掏摸のテクニックを研究し、悪者相手に実践経験あり。

 ちなみに尋常小学校2年は現在の年齢でいうと7歳の子供が通うところ、中学卒業程度の知識というのも旧制中学校の話なので、今でいうと高卒程度の知識ということです。7歳で。「紅色ダイヤ」という作品に、小学校を辞めてから3年で学問を修めて探偵事務所を開いたように書いてあるので、独立したのは9歳、尋常小学校4年の時のようですな。ええ、色々と言いたいことはありましょうが、そうだっていうんだから仕方ない。

 では次に、森田ひさし画伯描く、塚原俊夫君をご覧下さい。これが一番最初の『少年科学探偵』(文苑閣・大正15年)のビジュアルです。

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 ハンチングにチェスターコート、きっちりネクタイしめて、紳士ですな。何をやってるのかといいますと、山中から発見された身元不明の死体の頭蓋骨に復顔を試みているところです。

 で、この森田画伯が描いたイメージをほぼそのまま踏襲しているのが、2004年に出た、論創ミステリ叢書『小酒井不木探偵小説選』表紙に描かれた俊夫君。

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 こちらは帽子とタイと上着の色を合わせたオシャレ紳士コーディネート。つうかあれだな、ボウタイ着用は「見た目は子供、頭脳は大人」でおなじみの彼に引っ張られたな。

 そして上記3態とは若干趣を異にするのが、終戦直後の昭和23年に刊行された『少年科学探偵』(世界社)表紙に描かれている塚原俊夫君。学生じゃないのになぜか詰襟の学生服で坊主頭。というかそもそもデッサン狂ってる。ちなみに、手に持ってるスマホみたいな四角い物体は手紙ね。

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 戦争はいろんなものを奪っていくというのがよくわかるね。いや、わからんか。

 この名探偵・俊夫君の大活躍する『少年科学探偵』に収録されている作品ですが、「紅色ダイヤ」は江戸川乱歩の「二銭銅貨」を彷彿とさせるような暗号解読物、「暗夜の格闘」では奪われたプラチナの意外な隠し場所を俊夫君が持ち前の科学知識で暴き出し、「髭の謎」では科学探偵の名にふさわしく、顕微鏡を駆使して殺人犯の手がかりを探し出します。
「頭蓋骨の秘密」では復顔術なんていう特技を披露、「白痴の知慧」は少々趣向を変えてロジックによる犯人特定が主眼となり、「紫外線」は水銀石英灯を使った秘密の通信を見破ります。「塵埃は語る」では俊夫君は悪漢によって誘拐の憂き目に遭いますが、そのアジトを埃の成分からたちどころに見つけてしまいます。
 そして「玉振時計の秘密」はいわゆる倒叙物で、犯人小野龍太郎の犯行を俊夫君がいかにして見破ったかが見所となっています。

 論創社の『小酒井不木探偵小説選』には、さらに上記から漏れた「現場の写真」「自殺か他殺か」「深夜の電話」「墓地の殺人」、そして他の作品との類似が指摘されて連載が中絶してしまった幻の作品「不思議の煙」の雑誌掲載分までが収録されて、さながら「塚原俊夫コンプリート・ワークス」といった趣。本体価格2,500円と少々値は張りますが、横井司さんの丁寧な解題も読めますし、お勧めの一冊です。

 もっとも、身も蓋もないことを言ってしまえば、小酒井不木の作品はすべてパブリックドメインですし、ここらへんも無料版の電子書籍なり、青空文庫なりで公開されていていくらでも読めるのですが。

「作家別作品リスト:小酒井不木」(青空文庫)

 まあ、必ずしも本を買わなくても、気軽に読んでもらって、面白いと思ってもらえたならそれでいいかと。

 腕時計に麻酔銃を仕込んでたり、高速で走るスケートボードに乗ったりこそしませんが、大正生まれの塚原俊夫君もなかなかの超人少年探偵です。どうぞよろしく。

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